2013年2月23日土曜日

診断書の不同意に象徴的に表れた弁護団の対応に長期化のほとんどの原因が帰せ られた<元検弁護士のつぶやき>



刑事裁判における規制強化

『公判前整理手続き』の危うさ検証(東京新聞 特報)

 公判前整理手続の問題点がよく分析されていると思います。
 問題の事件自体は、報道で知る限り、否認事件としては比較的シンプルな事件であったと思われますが、それでもこれだけの問題が指摘されるわけですから、犯人性に問題があるなどのもっと複雑な事件になりますと、弁護人の負担はこの事件の数倍から十数倍になると思います。

 ところで、公判前整理手続というのは、裁判における規制強化ということができると思います。
 規制強化という観点から、特報の以下の記述(記事の最後のほう)が気になりました。

こうした問題点が浮上する一方、オウム真理教(アーレフに改称)の松本智津夫被告の裁判では一審判決までに八年を要した。裁判の長期化が、被害者や遺族へ与える苦痛も「人権侵害」に違いない。それが迅速化を促した経緯もある。
■迅速化のみ追求 被害者置き去り
 この点について、九州大学の内田博文教授(刑法)は「被害者が孤立無援になりがちなことは事実。自治体などによる人的物的な支援が必要だ」と提起する。だが、それと迅速化は分けて考えるべきだとも話す。
 「オウムのような長期化は例外だ。早期の厳罰が被害者感情を慰めるという考えがあるが、控訴審で逆転した場合、被害者の苦痛は倍加する。被害者の知りたいのは真相や背景だ。それを切り捨てる迅速化は被害者の苦痛を増しかねない」

 内田教授のコメントと思われる「オウムのような長期化は例外だ。」の部分です。
 多くの場合、規制強化は「例外的な事件」、「想定外の事件」を契機として「強化」されてきたように思います。
 特報で指摘されているとおり、私は、公判前整理手続については、オウム事件の松本智津夫の弁護団の対応がその大きな契機になったことは疑いないと認識しています。
 結果的に松本智津夫の弁護団の対応が世論の支持を得られなかったことが原因の一つでしょう。
 刑事弁護は世間の目を気にしていてはやってられないことは百も承知で書いています。
 百も承知ですが、松本智津夫の弁護団が、多数の殺人未遂の起訴事実の被害者の診断書を全て不同意として異議を述べたことはさすがにやりすぎであったと思います。
 その結果、検察は、多数の殺人未遂の公訴を取り消すというまさしく異例の対応を取りました。
 これにより、いまだに後遺症に苦しむ多数の生き残った被害者の声は少なくとも松本智津夫の刑事法廷には届かないことになりました。
 検察がそこまでしたにもかかわらず、第一審手続はなお8年を要したのです。
 裁判の長期化の原因はいろいろあると思いますが、公判前整理手続の制定過程において、診断書の不同意に象徴的に表れた弁護団の対応に長期化のほとんどの原因が帰せられたことは想像に難くありません。

 松本智津夫弁護団の訴訟戦術は、全て刑事訴訟法に則ってなされており、何ら違法な点はなかったはずです。
 また、被告人に最大有利な弁護活動を行うべしという刑事弁護の大原則にも適っていたのだろうとも思います。
 これに対して国(裁判所)側は、国会における法律(刑事訴訟法)の改正というこれまた何ら違法でない適法な手続によって公判前整理手続を制定したのです。
 この法律改正手続において、日弁連は有効は反対活動を行うことができませんでした。

 結局何が言いたいのかといいますと、犯しがたい自由、認められた権利があるからといって、全く無制約にそれを行使すると、いずれその反動が来るということです。
 松本智津夫弁護団が和歌山カレー事件の弁護団程度のスタンスであったならば、公判前整理手続はもう少し柔軟なものになっていたかも知れません。

 これは現在聖域と思われる言論の自由においても、同様の問題が生じうる、というか現に生じているところです。
 自由や権限の行使には責任が伴うということを再確認する必要があります。
モトケン (2006年1月29日 13:38) | コメント(5) | トラックバック(1) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:刑事裁判における規制強化 - 元検弁護士のつぶやき


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