2013年2月22日金曜日

責任を回避するためには、控訴棄却の不当性とその責任を裁判所と鑑定医に転嫁 するほか<元検弁護士のつぶやき>



松本弁護団、国(裁判所)と鑑定人を訴える。

 松本智津夫弁護団は、こんなことをやってたんですね。
 以前に書いたエントリ「松本弁護団の控訴趣意書不提出は正当か?」へのPAMPY さんのコメントで知りました。

オウム裁判:松本被告弁護人ら、控訴棄却決定は違法と賠償提訴(毎日新聞 2006年4月30日 東京朝刊)

地下鉄サリンなど13事件で殺人罪などに問われて1審で死刑判決を受け、控訴趣意書を提出しなかったとして控訴棄却決定を出されたオウム真理教(アーレフに改称)の松本智津夫(麻原彰晃)被告(51)の弁護人2人と二女、三女が「棄却決定は密室裁判で違法」として、国と精神鑑定をした西山詮(あきら)医師に計5000万円の賠償を求めて東京地裁に提訴していたことが分かった。

 弁護人主催の29日のシンポジウムで明らかになった。提訴は25日付。【高倉友彰】


松本被告の娘ら、国と鑑定医に損害賠償求め提訴(2006年4月29日23時44分 読売新聞)

オウム真理教の松本智津夫被告(51)(1審・死刑)の控訴棄却を決定した東京高裁の訴訟指揮と、訴訟能力があると認めた精神鑑定は不当だとして、松本被告の二女、三女と弁護人2人が、国と鑑定にあたった西山詮医師を相手取り、計5000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしていたことが分かった。

 提訴は25日。訴状では、「被告の訴訟能力を十分調査せず控訴棄却した訴訟指揮は違法」と主張している。

 ニュースを見た第一印象としては、  松本弁護団は必死だな、  です。

 弁護団としては、死刑事件の否認事件で、控訴趣意書不提出を理由に控訴棄却されちゃったわけですから、はっきり言って前代未聞の不祥事と言われてもおかしくない事案です。
 自分たちの責任を回避するためには、控訴棄却の不当性とその責任を裁判所と鑑定医に転嫁するほかないのでしょう。
 なりふり構わぬ必死さをひしひしと感じます。

 しかし、これはいくらなんでもやりすぎだと思います。
 裁判つまり裁判官の判断に納得いかないなら上訴等の不服申立て手続によって争うのが筋です。
 もちろん裁判所や鑑定人に対する損害賠償請求が認められる余地はないなどと言うつもりはありません。

 しかし、裁判所の判断や鑑定人に対して損害賠償請求をするとなると、それなりの具体的な根拠を主張しないといけないと思います。
 別に裁判所や鑑定人相手でなくてもそうなのですが、単に、自分(たち)に都合の悪い鑑定意見を述べたからとか、不利益な裁判をしたというだけで、損害賠償請求訴訟を起こされたのでは、少なくとも鑑定人はたまったものではありません(裁判所つまり国はたんたんと受けると思いますが)。
 訴えに根拠がなければ鑑定人は勝訴しますが、応訴の負担だけでも馬鹿にならないと思います。
 松本弁護団の控訴趣意書不提出は正当か?のコメント欄で、PAMPY さんが心配されているように、将来的に鑑定手続全体に悪影響が生じるおそれが懸念されます。

 というわけで、訴状の請求原因事実(訴えの理由・根拠)がどのようなものか興味があります。

 報道されているような「棄却決定は密室裁判で違法」とか「被告の訴訟能力を十分調査せず控訴棄却した訴訟指揮は違法」などという理由だけでは、到底勝ち目はないのではないでしょうか。
 この問題は私の専門外の国家賠償法の問題ですので、あまり自信がありませんが、刑事手続の異議申立の結論が出る前の民事提訴は、パフォーマンスか恫喝という印象を受けてしまいます。

 繰り返しになりますが、控訴趣意書を期限内に提出しなかった判断には賛成できません。
 少なくともかなりリスクの大きい賭だったと思います。
 私なら、一審が死刑判決の事件でそんな賭をする気にはなれません。

訴えによると、東京高裁は西山医師の鑑定書を基に被告の訴訟能力を認めて3月27日に控訴棄却を決定したが、これ以前に弁護人は趣意書を28日に提出すると公表しており「前日にだまし討ち的に控訴棄却したのは明らかに違憲、違法。(毎日新聞)

 裁判所から言わせれば、とっくの昔に棄却できてたんだよ、というところではないでしょうか。

 ちなみに、棄却決定が確定してしまえば、民事訴訟の結論がどうあれ死刑の結論は動きません。
 弁護団の民事提訴は、異議審の判断に何らかの影響を与えようとの意図があるものと考えざるを得ませんが、果たして吉と出るか凶と出るか、私は悲観的です。
 以前に私は、裁判官は法廷の独裁者である、と書いたことがありますが、裁判官相手に突っ張っても、勝算は少ないです。
 裁判官を相手にするときの最も強力な武器は、なんやかやと言っても、世論または常識を背景とした法解釈論理だと思います。
 裁判官は非常識だという批判が強いですが、結局それしかないと思います。
モトケン (2006年4月30日 11:12) | コメント(18) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:松本弁護団、国(裁判所)と鑑定人を訴える。 - 元検弁護士のつぶやき


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